初期外国語学習書

『格賢勃斯 英文典直譯』(巻之上下)

 

        

    概要

  • 大學南校助教譯/明治三年刊/大學南校開版/中本、原装、少虫損

 

        

    解説

     本書は、明治初期における英学(英語)入門の学生に用いられた英文法書である。本研究所資料庫所収の『ピネオ英文典』が慶應義塾をはじめとする私塾で多用されたのに対して、『カッケンボス英文典』は大學南校で採用された。本書はGeorge Payn Quackenbos(1826-1881)の著わしたFirst Book in English Grammar(1864)の直訳版(初版本)であり、当時急増する学生に供せられたものである。
     本書の内容は、第一課の例文Weeds grow rapidly.(草ガ長ズル速ニ)が示す言語論序説から始まり、発音学、文字論、品詞論、構文論へといずれも問答形式で進み(上巻は第五十四課まで)、下巻第七十六課の句読論で終わる。英文法の中核となる動詞に関する文法範疇としては、時制に「現在、半過去、過去、大過去、第一未来、第二未来(=未来完了)」を認める。また、法に「直説法、許可法、附属法(=仮定法)、使令法」を認め、ラテン語文法同様に不定法(=不定詞、完了不定詞)を別途定め、分詞には現在分詞、過去分詞、組立過去分詞(=完了分詞)を認める。ただし、残念なことに、英語原典においては各課に施された練習問題が割愛されている。
     なお、本学のほかに、国立国語研究所をはじめとして、東京大学、京都大学、筑波大学、神戸大学、広島大学、一橋大学、同志社大学など15校に及ぶ大学図書館に本書が所蔵されていることがCiNii Booksで確認できる。早稲田大学の所蔵本については、同大学古典籍総合データベースからデジタル画像(表紙装丁)を楽しむことができる。さらに、国立国会図書館近代デジタルライブラリーでは『英文典挿譯』の内容が確認できる。

    【参考】
    佐藤良雄 「英文典と国文典」『日本の英学100年(明治編)』(研究社,1968年)
    高梨健吉 『日本英学史考』(東京法令出版,1996年)
    高梨健吉・出来成訓 『英語教科書の歴史と解題』(大空社,1993年)
    松村幹男 『明治期英語教育研究』(辞游社,1997年)
    茂住實男 『洋語教授法史研究』(学文社,1989年)

    【文責】大森裕實

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