トップページ古書 >『砂漠に埋もれた文字 −パスパ文字のはなし−』

『砂漠に埋もれた文字 −パスパ文字のはなし−』(1971年)


資料名『砂漠に埋もれた文字 −パスパ文字のはなし−』  中野美代子氏の『砂漠に埋もれた文字 −パスパ文字のはなし−』は、1971年に初版が「塙新書38」として出版され、 1994年には幾つかの文章を書き足して「ちくま学芸文庫」の一冊として出た。
 この書が出るまで、パスパ文字の知識を日本語によって総合的に得られる概説書はなかった。もちろん服部四郎氏の『元朝秘史の蒙古語を表はす漢字の研究』(文求堂1946)はあったが、そこでの言及は主に『蒙古字韻』に関わるもので、総合的なものではなかった。中野氏によって本書が書かれて以来、学生や一般人も容易にパスパ文字の何たるかを知るようになったのである。
 本書の本領は、パスパ文字研究史を実に詳細に示した点にある。19世紀ヨーロッパの東洋学においてパスパ文字がどのように研究されたかを丁寧に説明しており、チベット学からの視点も踏まえている。ただし、パスパ文字漢語と漢語音韻史に触れた部分には危うい記述が見られるので注意が必要である。
 なお、1994年改訂版では、T-1.「スクロヴェーニ礼拝堂より」と、X-5.「日本の海に沈んだ「管軍総把印」」が追加された。前者はジョットの絵画の中にパスパ文字らしきものが描かれているという、導入として面白い内容である。後者は1981年に長崎で発見されたパスパ文字の印章について述べたものであるが、残念ながらこの書の価値を損ねている。
 いずれにせよ、本書によってパスパ文字の知識を得ることは、今なお有用であると思われる。旧版も改訂版も今では絶版であるが、古書店では時折見かける。(文責:中村雅之)
発行期日1971年9月15日
発行者塙書房
大きさ縦17.3cm×横10.5cm
頁数333+7頁
管理/所蔵古代文字資料館/吉池孝一蔵


   
1971年版の表紙                          1994年版の表紙

   
1971年版の目次                          1994年版の目次