満洲文字を知る
(1)満洲文字とは何か?

(2)満洲文字の構造

(3)満洲語について

(4)満洲語の文献

(5)無圏点満洲文字

(6)文字表

(7)基本参考文献

(8)モンゴル語を記した満洲文字

(9)漢語を記した満洲文字---1.文献



(4)満洲語の文献

 満洲語で書かれた文献は、公文書・歴史書・翻訳などを中心に非常に豊富にありますが、ここでは有圏点満洲文字採用後の満洲語文献のうち、満洲語の学習用に作られた辞書や教科書などの類を、主に池上二良氏の「満洲語史概略」(『満洲語研究』所収,汲古書院1999年)によりつつ紹介することにします。

(1)辞書
 満洲語の辞書として最も代表的なのは『清文鑑』の系統です。これは官製の対訳辞書としては最も大部なもので、最初に作られた『御製清文鑑』(康煕47年[1708])では満洲語を満洲語で解説するものでしたが、『御製滿蒙合璧清文鑑』(康煕56年[1717])では満洲語とモンゴル語の対訳、『御製増訂清文鑑』(乾隆36年[1771])では満洲語と中国語の対訳、『御製滿珠蒙古漢字三合切音清文鑑』(乾隆45年[1780])では満・蒙・漢の対訳、『御製四體清文鑑』(乾隆45年[1780]頃)では満・蒙・漢・蔵(チベット)の対訳、そして最後に作られた『御製五体清文鑑』(乾隆55年[1790]頃)では満・蒙・漢・蔵・回(ウイグル)の対訳、といった具合に拡大していきました。まさに大清帝国の版図と権威を象徴する辞書と言えます。その他の対訳辞書としては、『大清全書』(康煕22年[1683])、『滿漢類書』(康煕39年[1700])、『清文彙書』(乾隆16年[1751])、『清文補彙』(乾隆51年[1786])などがあります。

当館蔵『清文補彙』の巻頭

(2)読本
 満洲語の読本(会話教科書)類としてまず挙げなければならないのは、『一百条』、『清話百条』などと訳される『Tanggū Meyen』(乾隆15年[1750])の系統です。同書は本来満洲語のみで記され、所々に中国語の注釈が付されるというスタイルでしたが、これに中国語の対訳を加えた『清文指要』(嘉慶14年[1809]重刊)、モンゴル語と中国語の対訳とした『初學指南』(乾隆59年[1794]、満洲語は含まれない)、さらには満・蒙・漢の対訳とした『三合語録』(道光9年[1829])といった具合に改編されていきました。しかも、対訳に記された中国語の口語性が非常に高いことから北京語の教科書として重んじられ、後にその中国語の部分だけがトマス・ウェイド『語言自邇集』(1867年)の「談論篇一百章」に収められることになります。その他の読本類には、満洲語のみのものとして『清書指南』(康煕21年[1682])の巻二「滿洲雜話」、満・漢対訳のものとして『滿漢成語對待』(康煕41年[1702])、『滿漢字清文啓蒙』(雍正8年[1730])の巻二「兼漢滿洲套話」、『庸言知旨』(嘉慶7年[1802])などがあります。

(3)文法書
 文法書は満洲語の語尾や助詞などを中国語で解説したもので、アルタイ諸語における名詞の格や動詞の活用、あるいは各種の語形成といった概念を、中国語母語話者がどのように捉え、どのように表現しているかといった点で興味深い資料と言えます。『清書指南』の巻三「飜清虚字講約」、『滿漢字清文啓蒙』の巻三「清文助語虚字」、『清語易言』(乾隆31年[1766])、『三合便覧』(乾隆45年[1780])巻首の「清文指要」、『清文接字』(同治5年[1866])、『字法舉一歌』(光緒11年[1885])、『重刻清文虚字指南編』(光緒20年[1894])といった文献があります。

(4)その他
 その他、清王朝の公用語であった満洲語は近隣の諸国においても学ばれました。李氏朝鮮王朝の通訳養成機関であった司訳院には、それまでの「女真学」を引き継ぐ形で「清学」のセクションが設けられ、清学書と呼ばれる辞書や教科書が作られました。満・漢・朝の対訳辞書として『同文類解』(乾隆13年[1747])、『漢清文鑑』(乾隆40年[1775]頃)、また朝鮮語訳を付した満洲語の読本として『清語老乞大』(乾隆30年[1765])、『重刊三譯總解』(乾隆39年[1774])、『八歳兒』、『小兒論』(ともに乾隆42年[1777])などがあります。



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