パスパ文字('Phags-pa script)を知る
(1)パスパ文字の実例(貨幣銘文)

(2)いつ誰が作ったのか?

(3)パスパ文字の背景

(4)基本資料『元史』の釈老伝

(5)なぜパスパ文字を作ったのか?

(6)日本のパスパ文字資料

(7)パスパ文字という名称

(8)パスパ文字以前の文字

(9)パスパ文字で何語を書いたか?

(10)パスパ文字モンゴル語とパスパ文字漢語の碑文

(11)パスパ文字の用途

(12)パスパ文字の使用地域

(13)パスパ文字の文字表

(14)綴り方の特徴

(15)書写の方向

(16)パスパ文字を読む

(17)基本参考文献

(18)チベットのパスパ文字
(5)なぜパスパ文字を作ったのか?

 モンゴルの人たちは、パスパ文字を作る前、ウイグル文字という実用的な文字を使って いました。このような実用的な文字を持ちながら、ほかにパスパ文字を作った理由は どこにあったのでしょうか。『元史』という中国の歴史書によると次のようにあります。

 これを遼・金および遠方の諸国に考うるに、おおむね各国文字を有す。いま我が国の 文治ようやく興り、しかも字書を缺くは、一代の制においてまことに不備なりとせり。

 遼という国は契丹文字を、金という国は女真文字を、そして西夏国は西夏文字という 自前の文字を創製しました。それで『元史』の記述を額面どおりに受け取れば、 「フビライ汗はモンゴルも自前の文字を持つべきだと考えた」ということで、これは 民族としての自覚の高揚ということになるのでしょう。

 政治的には、モンゴル帝国の支配地域に大ハンの権威を知らしめるためということで、 それが第一の目的であったのでしょう。この文字の実用についてはあまり考慮されなかった とも考えらます。少なくとも、残された資料に拠る限り、実用的なものとして広く用いられる ことはなかったようです。文字を作ろうとした意図がどのあたりにあったか、このようなことは、 あからさまには書かれないのが普通でしょうが、遺物として現在に残っているパスパ文字の資料、 各地に建てられた皇帝の碑文や通行手形や貨幣などを見ると、漢字とは文字の構造を異に しながら、漢字に見劣りすることなく並び立っており、モンゴルの皇帝の権威を知らしめるのに 十分役立ったように見えます

kittan
契丹文字(大字)

seika
西夏文字
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