鈕形:鼻鈕 材質:銅
「t'uŋ-gi」が「金記」や「趙記」のように人名の姓に「記」を付したものか、
それとも「謹封」「封記」「印記」のような用語であるのか分からない。
孫慰祖『唐宋元 私印押記集存』(上海書店出版社2001)は「侗記」と読み
「侗」を人名とする。しかし「侗」は
人名用の字として一般的なものではない。一般的でないにもかかわらず
「t'uŋ-gi」印は文献資料と本印を併せて少なくとも5点は存在する。
その上すべて同形で大きさもほぼ等しく既製品として数多くつくられた可能性もある。
人名の可能性は低いと言わざるを得ない。「t'uŋ」に対応しそうな漢字をみると、
「通」と「統」くらいである。そこでかつて『KOTONOHA』1号で「通記」(広く用いる印)
という案を提出したことがある。もっとも、「通記」は一般的な用語ではなく他に
この案を支える資料もない。なお検討を要する。
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この解説文は吉池孝一「元代私印(パスパ字漢語)六顆」『KOTONOHA』19号より抜粋した。