表の銘文には「'yδwx(聖なる)-yrlyγ(勅令)-ywryz-wn(行き渡れ)」
とある。これを「聖なる 勅令が 行き渡りますように!」
(『中央アジア出土文物論叢』2004,p.22)や「聖命準予通行[神聖なる勅命が、
(この貨幣の)通行を許可する]」(新彊銭幣1991,p.194)
などとする訳がある。後者は貨幣の銘文として自然であるけれども意訳に過ぎる
ところがある。
そこで、この銘文を「'yδwx-yrlyγ」と「ywryz-wn」に分け、
「聖なる勅令(は言う)。(この貨幣が)行き渡りますように!」
と読むことにする。この銘文は、当該国において貨幣を通行させる詔勅が出された
という歴史的事実を反映するものであろう。
なお、「'yδwx」の「'y」に続いて右下に下る線があり、最終部分が途切れてい
るので「m」のように見えるけれどもそうではない。これは「'y」から次の「δ」
に連結する線のふくらみである。この種の貨幣はすべて連結部分が途切れているので、
このような書体も認められていたものと思われる。