2004年5月12日付「おろしゃ会」ニュース


プーチン大統領就任式典の日に抗議行動


モスクワに滞在中の明治大学教授・豊川浩一氏より、以下のようなメイルが届きました。この事件は「プラウダ」のインターネット版には報道されたのですが、日本のマスコミでは取り上げられなかったので同氏の了解を得て、掲載いたします。ロシア語版プラウダについては、文字をクリックしてご覧下さい。(加藤史朗)


5月7日に面白い体験をしましたので記しておきます。当日、夜7時からボリショイ劇場でチャイコフスキーのオペラ「マゼッパ」を見ました。3幕もので3時間40分と大作です。時間を心配しながら、休憩が終わって第2幕が始まろうとした瞬間、2・3階席からビラが降ってくるではありませんか。オペラの演出かと思っていたら今度は舞台上に若者が数人ソ連時代の赤旗を2枚掲げながらなにやら叫び、それに呼応して2階席からも発煙筒をたきながら叫び声が上がっていました。場内は騒然たる雰囲気。これは新手のテロかと一瞬おののきながら様子をうかがっていると、「国民=ボルシェビキ」を名乗る10代半ばから後半の青年たちが叫んでいるのはプーチンの退陣のようでした。観客のなかには立ち上がって青年にエールを送っている者、「別の演劇ね」と喜んでみている者。どういう人々の集団なのか聞いている人など様々でした。以下は拾ったビラの内容です。「プーチンの専制政治は去れ!2004年5月7日は国民的な恥辱の日。今日はロシア史の中で恥辱に満ちた日である。玉座(言い換えることもあるまい)に、自国民を欺いた人間が登った。恥ずべき不正な選挙がプーチンを大統領に選んだ。ロシアは警察国家に逆戻りし、その国民は農奴へと戻った。しかし、私たちは奴隷ではないし、奴隷は私たちではない。国民=ボルシェビキは全自由人を新たな専制と独裁に対して統合するために呼びかける。別のロシア、すなわちツァーリ・プーチンのいないロシア、モンスターである官僚のいないロシア、農奴のいないロシアがやってくる。内務省特別隊の棍棒も、牢獄も、強制収容所もわれわれの意思を自由へと向かわせるものではない。われわれはツァーリ・プーチンを必要としていない(この一文のみ英語)」(国民=ボルシェビキ)これがビラの全文ですが、5月7日はプーチンの大統領就任式がクレムリンで行われました。こうした動きに反対する青年たちが発言の場をボリショイ劇場に求めたのでしょう。なんたって「ボリショイ」ですし、外国人観光客も多く、格好の政治的発言の場所だったのでしょう。テロ対策にとても厳重なボリショイ劇場によくもまあ発煙筒が持ち込めたものだと思いつつ、また警備員の対策のまずさにも首をかしげながら様子を見ていましたが、青年たちがどこかに連れ去れると、今度はまた何事もなったかのようにオペラが続けられ、終わると盛大な拍手が嵐のようになりました。たしかにオペラそのものは素晴らしかったのでしょう(?)。それにしても「二つの観劇」を見ることが出来たのは貴重な体験でしたが、あまりしたいとは思いませんね。 豊川浩一(明治大学)