16世紀古文書から見たアステカの世界観

ベルナルディーノ・デ・サアグン

「ヌエバ・エスパーニャ概史:七巻 原住民の占星術について」

第十一章 52年目に新しい火を起こすために守ってきた秩序と、それを起こすためのすべての儀式

日本語訳:三岡愛

1、 ウイクサチトラン山において常にあたらしい火をおこしていたことはよく言われており、そして、あの山に行くための順序はこうである:この祭りの前夜に、太陽はすでに沈み、偶像神の神官が用意され、着飾ってその神々の装飾品を身に付けたので、その神官たちはその同じ神々であるかのように思われた。

2、 そして夜になる頃、彼らは少しずつ、とてもゆっくり、そして重々しさと静けさの中で歩き始めた。従って、彼らはまるで神のように歩く、という意味でテオネネミと言われていた。

3、 メキシコを出発して前に述べた山に着いたのはほとんど真夜中近くで、新しい火を起こす仕事を持つコポルコ地区の司祭は、手に火を起こす道具を持って来た。そしてメキシコからすべての道すがら、火をおこすことのできる簡単な方法を試しながらやって来た。

4、 あたらしい火を起こして手に入れなければならなかったあの夜が到来し、みんなとても大きな恐れを抱いていて、たくさんの恐怖を持って何が起こるか待っていた。なぜなら、彼らの内でこういったうわさや信仰があったからだ。それはもし火を取り出すことができなかったら、人間の血筋は絶えるであろう。そして、あの夜、あの闇が永久に続くであろう。そして、太陽は再び生まれ、出てくることはないだろう。そして醜く恐ろしい姿をしたチチミネは上から降りてきて、男性や女性を食べてしまうだろう。

5、 従って、すべての人が屋根裏にのぼって、それぞれの家の人たちみんながそこに集まった。誰もあえて降りようとはしなかった。

6、 そして妊娠した女性たちは顔にリュウゼツランの葉でできた仮面をつけた。そして彼女たちを穀物倉庫に閉じ込めた。なぜなら、もし火をおこすことができなかったら、彼女たちもまた獰猛な動物に戻って老若男女を食べてしまうと言われていた。

7、 子供たちにも同じ事をした。なぜなら、顔に前述のリュウゼツランの葉でできた仮面をつけ、少しも彼らを眠らせなかったからである。そして父親と母親は彼らをいつも押したり声をかけたりして、起こすことにとても気を配った。なぜならもし彼らを眠らせると、彼らはハツカネズミに戻ってしまうと言われていたからである。

8、 このように、すべての人は火が起きると予想していた地点のほうを見ること以外、他のことは理解できなかった。そして、とても心配しながら火が起き、そしてその火が見える時間や瞬間を待っていた。

9、 火を取り出していたとき、その後遠くからでも見られるようにとても大きな焚き火を築いた。あの明かりを眺めた後、みんなナイフで自分たちの耳を切り、流れる血を飲み、火が現れた方向にその血を散り播いた。

10、 そしてゆりかごの中にいる子供までみんなそうせざるを得なかった。なぜなら、彼らもまた耳を切られたからである。つまり、このようにしてすべての人が悔悛するか、又はそうする価値があると言われているからである。偶像神の司祭たちは、上で述べたことによって、囚われた人の胸や内臓をまるでナイフのような鋭い石で開いた。