満洲文字を知る
(1)満洲文字とは何か?

(2)満洲文字の構造

(3)満洲語について

(4)満洲語の文献

(5)無圏点満洲文字

(6)文字表

(7)基本参考文献

(8)モンゴル語を記した満洲文字

(9)漢語を記した満洲文字---1.文献


(9)漢語を記した満洲文字---1.文献

 満洲文字文献の中には漢語を記したものがかなりの数があります。印刷物ではほとんどが漢字とともに 記されます。代表的なのは「清文鑑」系の辞書で、『御製増訂清文鑑』(1771)や、『御製滿珠蒙古漢字三合切音清文鑑』(1780)などです。 また、満洲語と北京語の対訳会話集『兼満漢語満洲套話清文啓蒙』(1761)にも、ルビのように満洲文字で漢語の発音が記されています。 さらに、『金瓶梅』など小説の満洲語訳でも、人名などの固有名詞には漢語の発音が満洲文字で記されることになります。以上の資料については、 日本人による充実した索引や翻訳があります。
  cf.中嶋幹起編(1999)『清代中国語 満洲語辞典』(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
    落合守和(1989)「翻字翻刻≪兼満漢語満洲套話清文啓蒙≫(乾隆26年,東洋文庫所蔵)」『言語文化接触に関する研究』1
    竹越孝(2012.3)『兼滿漢語滿洲套話清文啓蒙 : 翻字・翻訳・索引』(神戸市外国語大学研究叢書 第49冊)
    早田輝洋(1998)『満文金瓶梅訳注(序-第十回)』(第一書房)
    鋤田智彦(2007)「『満文金瓶梅』漢字音表」『中国語学研究開篇』26

 手書きの資料としては、『三国志演義』が満洲文字で記された資料がパリの国立図書館に残されています。これは満洲語訳ではなく、『三国志演義』の一伝本の本文を満洲文字で記したもので、漢字を伴わない満洲文字漢語です。イメージとしては、漢字なしにピンインだけで小説一冊を書き写したようなものですが、何のためにこのようなものが書かれたかは不明です。

 貨幣にも満洲文字漢語が記されました。「順治通宝」以降の各時代の貨幣には地名(造幣局)の一字が記されたものが多く作られています。順治通宝の詳細についてはこちらを参照。

 また、清代の史跡には漢字とともに満洲文字漢語の記された遺物が多く見られます。例えば、次のように、北京故宮博物院の「養性門」には「yang sing men」という満洲文字が添えられています。[日比野高広氏撮影]

 さらに、各種の公印にも満洲文字漢語の記されたものが知られています。次のものは模造品(沖縄のお土産品)ではありますが、「琉球lio cio」「王wang」の部分が漢語です。[竹越孝氏撮影]

 その他、満洲語碑文の中にも漢語語彙の表記が頻繁に見られます。満洲文字の文献は大量に現存していますが、以上のように漢語の発音を記したものも決して少なくありません。それらは清代漢語の発音を知る手がかりになります。

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