初期外国語学習書

『英吉利文典』

 

        

    概要

  • 開成所/明治三年(奥付は明治二年)刊/東京萬屋兵四郎発兌(はつだ)/福田氏蔵版

 

        

    解説

     本書は、幕末期から始まった(蘭学の伝統を継承した)英学における英語学習のために、開成所([旧]蕃書調所)で慶応二年(1866)に出版された薄手の文法書であり、その形状と表紙色から、通称『木の葉文典』という。原典は中浜万次郎が嘉永四年(1851)に米国から持ち帰ったというThe Elementary Catechism, English Grammar(1850)に辿ることができ、その原書名Catechism(問答式教授法)が示すように、初等英文法の問答集であるところに本書の特徴を看取することができる。後年、『言海』及び『広日本文典』を著わした国語学者の大槻文彦も、この『英吉利文典』の恩恵に浴したものと考えられる。本書に銘記された「福田氏蔵版」の福田氏とは、開成所で英学句読教授出役を務めた福田松次郎のことか(不詳)。
     本書の構成は、What is Language?で始まる序章Lesson 1から、Orthographyを扱うLesson 2-7、Etymologyを扱うLesson 8-15、Inflectionを扱うLesson 16-46、Syntaxを扱うLesson 47-59、そしてWhat is Prosody?を問う最終章Lesson 60まで、Appendixを含めても総63頁という極めて簡易な内容から成り立っている。また、当時の英文理解法の主流であった「文解剖」(Parsing)についてLesson 57 & 58で採り上げられている点も看過できない。
     なお、本学のほかに、東京大学及び香川大学の図書館に本書版が所蔵されていることがCiNii Booksで確認できる。また、早稲田大学で所蔵されている複数本については、同大学古典籍総合データベースからデジタル画像(表紙装丁)を楽しむことができる。さらに、国立国会図書館近代デジタルライブラリーでは内容も確認できる。

    【参考】
    池田哲郎 「英語教科書」『日本の英学100年(明治編)』(研究社,1968年)
    高梨健吉 『日本英学史考』(東京法令出版,1996年)
    高梨健吉・出来成訓 『英語教科書の歴史と解題』(大空社,1993年)
    松村幹男 『明治期英語教育研究』(辞游社,1997年)
    茂住實男 『洋語教授法史研究』(学文社,1989年)

    【文責】大森裕實

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