16世紀古文書から見たアステカの世界観

ベルナルディーノ・デ・サアグン

「ヌエバ・エスパーニャ概史:七巻 原住民の占星術について」

第二章 月について

日本語訳:(1ー12)舟木律子
(13ー23)熊谷めぐみ

 1.−月が新たに生まれるとき、それはまるで細い針金のようだ。輝いている月ではあるが、その光は徐々に明るさを増していく。15日後には満月になる。そして満月になると、太陽が沈むとき東から昇り、まるで大きな、非常に丸く、そして赤く色づいた石臼のようにみえる。また、昇っていくところは白く、もしくは光り輝いているようにみえ、その真ん中には一匹のウサギがみえる。そして雲のない晩には、それはまるで昼間の太陽のように輝き、完全な満月になった後には、だんだんと元あった形へと欠け始める。

 2.−その時人々は言う。もう月が死ぬ」、「月が寝過ごす」月が曙とともに出てくるような時には、そして月と太陽の軌道が重なるときには、「月はもう死んだ。」と言う。
 
 3.−月にいるウサギの伝説はこのように語られている。神々が月をからかいその顔面にウサギを投げ与えた。ウサギは月面に残りそのままそこに刻まれ、それによってあざがあるかのように顔をに影りを与えた。その後、月は世界を照らすために昇ったと。

 4.−この世界に昼というものが存在する以前、テォティワカンの地、すなわちチコナゥトゥランとオトゥンバの間にあるサン・ファンの村、に神々が集まり口々にこう言った。「誰がこの世界を照らすべきか。」と。

 5.−するとテクシツテカトゥルという名の神がこれらの言葉に答えて、「私が世界を照らす役目を負おう。」と言った。そして再び神々は話し合い、「もうひとりは誰か。」と言った。

 6.−神々は互いに顔を見合わせ、誰がもうひとりになり得るかということを協議した。誰一人あえてその任務をやろうというものはいなかった。皆恐れをなし、言い訳したのであった。

 7.−その中でひとり数に入れられていない神が、ナナウァツィン「吹き出物でいっぱいの醜いやつ」であり、自らは話さず他の神々の言うことを聞いていた神がいた。他のもの達は彼に「おまえさんが照らすんだ。ナナウァツィン。」と言った。その神は快く命に従い、こう答えた。「それがこのような命であっても、意のままに従おう。」と。

 8.−その後二人の神は4日間の苦行をはじめた。そして現在テォテシュカリと呼ばれる岩山にできた炉の中に火をつけた。

 9.−神テクシツテカトゥルが奉納したものは全てがすばらしかった。小枝の代わりにケツァルと呼ばれる豪華な羽毛を、干草の球の代わりに金の球を、そしてリュウゼツランの刺ではなく宝石でできた刺、血まみれの刺ではなく色付いたサンゴの刺を差し出した。また彼が捧げたコパル香(樹脂の一種)も大変よいものであった。

 10.−そして、ナナウァツィンという名の醜い神は、小枝の代わりに緑色のアシを三本づつ三束、全部で九本奉納し、干草の球とリュウゼツランの刺を自らの血で染め、コパルの代わりに吹き出物のかさぶたを捧げた。

 11.−これらの神それぞれのために山のように巨大な塔が築かれた。そして、この塔の中で彼らは四晩苦行を行った。現在これらの山はツァクァジと呼ばれ、両方ともテォティワカンというサン・ファンの村の傍らにある。

 12.−四晩にわたる苦行が終わると、その後その辺りに小枝やその他全ての行に用いたものが投げ出された。

13― これは真夜中過ぎに仕事を始めなくてはならない時、苦行の最後に行われた。真夜中になる少し前、彼らはTecuciztecatlと呼ばれる者に飾り付けをした。Aztacomitlと呼ばれている者に羽根飾りを与えた。そして長サラシの上着も。またNanauatzinと呼ばれている醜い者の頭に、amatzontliと呼ばれる髪飾りをつけた。紙の襟とふんどしを着せた。そして真夜中が来て、全ての神がteotexcalliと呼ばれる炉の周りに集まった。この場所では、4日間火が燃えていた。

14−2つの輪になり前述の神々が勢ぞろいした。火の部門の神々、また他の部門の神々、そして後に前述の2人が、神々の2つの輪の中央で顔を火の方へ向け、火の前へ出た。

15−全ての神が起きていた。そして後で、神々は話し合い、Tecuciztecatlに言った。「ああ、Tecuciztecatl、君が火の中に入るのだ!」そして彼は火の中に飛び込む決心をした。しかし火は大きく真っ赤に燃えており、彼は火の熱さに恐怖を感じて火の中へ思いきって飛び込むことができず、後ろへ戻った。

16−もう一度思い切り、火の中へ飛び込むために彼は戻った。しかし体はこわばり、火の中に思いきって入ることをしなかった。四度試したが、決して飛び込むことはしなかった。「四度以上は試さない」という掟があった。

17−四度試した後、神々がNanauatzinに言った、「ああNanauatzin、君が試すのだ!」

18−そして神々が彼を説得したので、勇気を奮い起こし、さっと火の中に飛び込んだ。そしてパチパチ音がし始め、火あぶりにされる人の様に火の中でジュージューと焼かれた。。そして火の中に飛び込んで燃える姿を見たTecuciztecatlは火の中に飛び込んだ。

19−それから火の中に一匹の鷲が入り、これもまた焼かれてしまったという。それで黒ずんだ羽を持っているのだ。最後には虎が入った。そして焼かれるのではなく焦げただけで、その為黒と白の斑点ができた。

20―この地では戦いに熟練した男達をクアウトロセロトルと呼ぶ習慣が生まれた。初めにクァウトリと言う、なぜなら鷲が始めに火の中へ入ったからだ。そして最後にオセロトルと言う。なぜなら虎が鷲の次に火の中へ入ったからだ。

21−両者が火の中へ飛び込み、焼けてしまった後で、神々はNanauatzinがどこから出てくるかを、座って待っていた。

22−長い間待った後で、空が赤くなくなり始め、空全体に夜明けの光がさした。

23−そしてこの後、神々は太陽になったNanauaztinがどこから出てくるかを待つために祈ってひざまずいた。周囲の全ての場所を見ていたが、どこから現れるか、決してうまく考えつかず、言い当てられなかった。何も決定されなかった。ある神々は北の方から現れると考えていたし、こちらの方向を見るようになった。他の神は南の方を眺めていた。深夜になるにつれ、全ての方角に対し、彼が現れるべきだと疑った、なぜならどこの方角にも暁の強い光があったからだ。他の者達は東方を見ており、そして言った。ここ、この方向から太陽が現れるべきだと。このように言われた事が真実だった。